【香港ローカル ニュース Vol. 63】

富裕層に移民ブーム インターナショナルスクールの債券譲渡価格が700万ドルを切る

【Apple Daily記者より】香港の政情不安定から富裕層の香港人が一家を挙げて移民するペースが加速しており、インターナショナルスクール(以下、インター)を中途退学するケースが増えるに伴い、セカンドハンドの(裏書譲渡で取得した)学校経営母体の社債debentureと資本借入手形capital noteが投げ売りされている。

Apple Daily記者が客を名乗って数箇所の投資会社に問い合わせをしてみたところ、政府高官の子女や、富裕層に仲間入りした企業家の二世で漢基國際學校Chinese International School(所在地:香港島東寄りノースポイント, ブレーマーヒル周りは高級住宅地; 授業は普通話(現代標準中国語)と英語のみ; 香港日本人学校の所在も付近)に入学していながら、堰を切ったように親が移民を決めた家庭が急増した結果、セカンドハンド債券の市場価格が1,200万香港ドル(約1億6,400万円)から、破格値の半額(約8,200万円)、500万香港ドル(約6,800万円)で投売りされていることもあることが明らかになった。【※Yahoo! Japan ファイナンス2月8日の為替レート13.600186で換算。】弘立書院The ISF(Independent School Foundation) Academy〔2003年新設のインターで、‎授業は普通話(現代標準中国語)と英語のみ;所在地:香港島西の薄扶林Pok Fu Lam、同‎様に高級住宅地〕の債券価格もピーク時の約800万香港ドル(約1億9,000万円)から480‎万香港ドルに下がり、取得額のおよそ4割を失っている。教協(香港教育專業人員協會Hong Kong ‎Professional Teachers’ Union)副会長の葉建源の分析では、「香港の政治的また経済的な要因‎に陰りが差していることから外国人が子供を香港の学校で教育することを望まなくなり、インターの学位へのニーズが一歩後退している」と見ている。‎

※以下、関連ニュース

金銭で入学枠を確保 審査に制度が決められていない

香港では高額学費のインターで教育を受けることはステータスシンボルとなっており、相当の財力のある両親が、名義人になれば優先的に子供の入学枠を確保することの出来る債券や資本借入手形を高額であることを物ともせずに‎購入して、少ない枠の取り合いを有利に進めようとするのが常であった。過去には、長江実業グループの顧問役である李嘉誠の孫娘の燕寧や、香港四大富豪の一人である劉鑾雄Joseph LAU Luen Hungの長男 劉鳴煒が在籍していた‎漢基國際學校は、譲渡枠が極めて少ないこと、また債券に期日が設けられていることなどから、譲渡対象の債券はこれまで価格が上がることはあっても下がることはなく、1,200万香港ドルの水準を多年来キープして来ていた。(※不動産王である香港の四大富豪は、李嘉誠実、李兆基、鄭裕彤、‎郭得勝の四人。劉鑾雄は「株式市場のスナイパー」の異名がある。‎)


‎『香港名門インターの債券破格の譲渡金額』‎  
漢基國際學校  ピーク価格1,200万香港ドル→500万から900万香港ドル、下げ幅25~58%
哈羅國際學校  ピーク価格600万香港ドル→300万から330万香港ドル、下げ幅45~50%

弘立書院  ピーク価格800万香港ドル→480万から680万香港ドル、下げ幅15~40%

滬江維多利亞學校 ピーク価格400万香港ドル→350万から400万香港ドル、下げ幅12.5%

投資コンサルティング会社:買いの問い合わせ6割減少

記者が客として、数社のメンバーシップ投資コンサルティング会社に客として問い合わせをした際、そのうちの一社はインターの債券転売をメインに扱う会社で、応対した女性スタッフが答えた内容によると、今までのマーケットでは漢基國際學校CIF債券転売は一年間で多くても一・二だけだったが、今年に入ってから一ヶ月だけで学生が急に中途退学するために既に少なくとも4件の法人指名権付き債券が売りに出されて、これは異例なことだという。※漢基國際學校CIFの場合、学生は個人名義・法人名義いずれかの所有の債権を持っているか、あるいは年間費用を納めて指名権を保持する決まりとなっている。

「最低額でも500万香港ドルは必要です。一家そろって移民するので半額の破格値でも売ります。長年見て来ましたがこんなに価格が落ちたのは見たことがありません。躊躇していたら単なる紙屑になってしまうのを恐れているようです」と言いながらも、市場に売りに出されている、その他数枚の漢基の法人名義で指名権付債券は、売り手側の提示額が650万香港ドルから900万香港ドルの間であり、下げ幅は大体25%から46%くらいで、該当する債権の期日は2022年から2024年とばらばらだとのことだ。

もう一つの弘立書院The ISF Academyのほうは、資本借入手形capital noteの名目であり、ピーク時の2016年での売買成約価格は800万香港ドルだったが、現在は480万香港ドルほど落ちて下げ幅は約40%。同時に市場での譲渡価格は直近に発行された額面650万香港ドルのもので26%が目減りしている。

別のメンバーシップ投資会社の代表者である陳さんも、「香港の政治的環境が劣悪化しており、学校を中途退学して一家で移民する家庭が少なくない」という。海外のパスポートを持つ大陸の富豪の家長も、「子供を海外の学校へ送り出して教育させようと」願っている。「香港と大陸の親御さんから今買値の問い合わせをしてくる件数は、4,5年前の政情の良かった時に比べるとおおかた6割減少していて、供給過多のため債権価格も大きく下がっています」。

その他、「貴族学校」と呼ばれることもある哈羅香港國際學校Harrow International School Hong Kong (2012年創設、英国のHarrow Schoolおよび The John Lyon Schoolとの提携校としてアジアでは第三の教育機関。所在地:新界屯門 Tuen Mun)は、セカンドハンド譲渡の市場で過去最高指値が600万香港ドルだったこともあるが、現在では45%から50%減少した300万から330万香港ドルの水準にある。

滬江維多利亞學校Victoria Shanghai Academy(所在地:香港島香港仔 Aberdeen。英語での授業を行う学校としての創立は1958年だが、小学部が2003年に国際的に認知されている国際バカロレアを発行できるインターとして規模を拡大し、初等から中等<日本の中学・高校レベル>および大学預科までを揃えた学校となった)の債権は価格が比較的安定しており、350万から400万香港ドルの水準を保っている。

Victoria Shanghai Academyの外観

政情不安定と新型ウイルス感染の挟み撃ち 外国人子弟を抱える家庭は撤収

教協(香港教育專業人員協會Hong Kong ‎Professional Teachers’ Union)の副会長であり、かつて教育職能部門枠で元・立法議員‎であった葉建源の指摘によると、「インターのセカンドハンド債券の市場価格が下がっているのは、主な原因として香港の政治環境の悪化であり、一部のグローバル企業が自社社員を香港に赴任させたとしても、社員は家族を帯同して香港に住むとは限らないことが大きな理由だ」としている。香港で昨年から始まった武漢肺炎(=新型コロナウイルス)の感染拡大により、一部の外国人家庭も登校での対面授業が暫時休校になって子弟の学業にも影響が出ているため、子供を自国に帰国させることも起きている。

「全世界が感染爆発に陥っているとはいえ、往々にして外国人の学生が香港に戻って来ることはありません」。葉建源は推測としながらも、世界経済の景気後退の中、家長もわざわざ香港のインターに子弟を送り込み数百万香港ドルを費やすことはもうしないだろうとしている。インターが学生受け入れを減らす状況は、今後二、三年は続くかもしれないと見ている。

香港でビジネスを行っている中産階級のある家長は、香港の中学・小学校の教材の内容が何度も繰り返し捻じ曲げられているのを目撃し、今は幼稚園年少組の娘さんをインターに転向させる計画変更を考えているとして、「びっくりですよ、公立学校は。今の教育は全くごたごたばかりで、うちの娘をインターに転校させることにしているんですが、インターなら政府の(教育局の)コントロールを受けるのも多くはないと思いますが、まったく次の世代の教育は面倒だらけです」と言っている。それでも学校債券を買うチャンネルが必要か否かはまだ考えが決まっておらず、「価格が下がれば、中産階級でも富豪というほどのレベルでない人にも魅力がありますし、うちも金が唸るほどあるわけではないので、実力だけで入学試験を通ればあのような学校の債券を買う必要もないのですが。」と述べている。

ニュースソース Apple Daily 2021年2月8日 02:56

https://hk.appledaily.com/local/20210208/I6DCKIPIQNFRTBN7B67PZ6NJMM/?fbclid=IwAR1Eof81iejzAEEkzdKTIYV4oCScIoxzH7DxMmCzNydMkAXTkgwi4NUdO2E

漢基國際學校Chinese International Foundation

香港では少なからぬインターナショナルスクールが、学校債券(debenture)や資本借入手形(capital note)や指名権(nomination right)、資本証明など名称は異なる債権などを発行しており、家長が個人名義か法人名義で購入するよう提供している。以前の目的は一部の会社の海外社員の子女に学位(国際バカロレア)を取ることを保障し、債券の名義人が優先的に面接の資格を得るためのものだったが、やがて富裕層でなければ入学できないようなシステムの前提条件に変わっていった。

漢基國際學校CIFを例に取れば、学生が学校から入学許可を得る時には、7.5万香港ドルの費用で個人の指名権を持っていなくてはならない。個人の指名権は両親の一方、又は後見人の名義で発行され、当該の指名権指定の学生にのみ使用され、譲渡は出来ない。

※同校のウェブサイトによると、2019年4月に関連する準則は改訂されたが、基本的なシステム・手順についての変更はないとしている。有効期日つきの法人指名権を持つ者は学校入学を許される可能性が高いが、法人指名権自体は強制的なものではないとしている。また2012年以降、法人指名権(CNRs)を有効期日内の最後の一年間に学校側が買い戻すことを始めたが、古い法人指名権の保持者は、買戻しの代わり新しい法人指名権に交換することは出来るが、新しい法人指名権は譲渡不可なので公衆の提供に回す可能性は極めて制限がある。

耀中國際學校(Yew Chung International School of Hong Kong)中学部(日本の中学・高校一貫教育に対応)の学生の場合も債券の購入が必須であり、同じ家庭から一人目の子女である場合、債券費用は47万香港ドルとなる。

弘立書院The ISF Academyが直近で発行した一枚700万香港ドルの資本借入手形は、当該手形を持っている学童に必ず入学できることを保証してはいないが、手形を持っていれば入学査定試験を通ってから優先的に審査してもらうことが出来、二回の入学査定の機会が与えられる。この手形は譲渡できるが学校から返金を求めることは出来ない。学校は同時に規定を定めており、譲渡から得た利潤は手形保持者と学校の基金と同額で分けることになっている。

オンブズマンは教育局に何度か抗議

申訴專員公署(オンブズマン事務局)は去年1月に主体的調査報告を発表し、その中で「政府の教育局が長年に渡り有料の審査制度を設けていないことは、『教育準則』と矛盾していると批判しており、政府当局は審査メカニズムを早急に制定するように」と要請している。

これに対して、教育局局長である楊潤雄は後日釈明を行い、局側は一貫してこうした費用は学校と父兄の間で決める「私的な財務取り決め」と看做しており、現在のインターが各校様々な名目で費用を集めている現状を鑑み、2020/21学期からは、すべての私立学校とインターがその他の費用を徴収することには教育局に対して申請を求めるようにと要求するようになった。

ニュースソース:Apple Daily 17小時前 2021/02/08 02:12https://hk.appledaily.com/local/20210208/UITCTLJMDBBO5LBM7TRNACJQWQ/