【香港経済を追え vol. 7】

シンセン市のグレードアップ計画は、香港を揺るがすには及ばない!

ここ数月来の逃亡犯条例改定反対の抗議活動の連続で、香港の金融は、ハンセン指数で見るなら、8月15日に最低ラインの24,899ポイントを記録し、7月4日の高値29,007ポイントに比べ、16.14%下落した。

  貿易では米中貿易戦の煽りから、今年6月の香港輸出入全体の貨物値はいずれも40ヶ月来で単月最大の下げ幅を示し、今年前半では前年比3.6%の下げとなった。

そんな中、深圳(以下、シンセン)が「金融サービスの実体経済力を引き上げ」「人民元のグローバル化を進めるのにパイロット的なテストを行い、国境を越えた金融ガバナンスにイノベーションを起こす試みを目指す」必要があるという異例の言及を行った。

香港・マカオ・中国の広東省の3地域を統合して、世界有数のベイエリアとして発展させる『グレーターベイエリア構想』(粵港澳大彎區發展規劃綱要)が中国政府主導のもと進められているが、この構想ではシンセンのグレードアップには触れられていない。

香港は現在の状況を脱却し、これを契機として、今まで以上の大きな経済圏構想の中で、これまでのプロフェッショナルなサービスの面での国際金融センターとしての地位を堅持していけるだろうか。

政治的閉塞局面にある、今の香港の経済を読み解くポイントして考えられる(1) シンセンのグレードアップ計画、(2) グレーターベイエリア構想(粵港澳大彎區發展規劃綱要)、(3) 香港の国際空港のハブとしての地位、(4) 香港のシステムと国際的商習慣について考察する。

シンセン市のグレードアップ計画は、香港を揺るがすには及ばない!

ここ数月来の逃亡犯条例改定反対の抗議活動の連続で、香港の金融は、ハンセン指数で見るなら、8月15日に最低ラインの24,899ポイントを記録し、7月4日の高値29,007ポイントに比べ、16.14%下落した。

貿易では米中貿易戦の煽りから、今年6月の香港輸出入全体の貨物値はいずれも40ヶ月来で単月最大の下げ幅を示し、今年前半では前年比3.6%の下げとなった。

そんな中、中国政府は、深圳(以下、シンセン)について、「金融サービスの実体経済力を引き上げ」や「人民元のグローバル化を進めるのにパイロット的なテストを行い、国境を越えた金融ガバナンスにイノベーションを起こす試みを目指す」などの必要があるという異例の言及を行った。

香港・マカオ・中国の広東省の3地域を統合して、世界有数のベイエリアとして発展させるグレーターベイエリア構想(粵港澳大彎區發展規劃綱要)が中国政府主導のもと進められているが、この構想ではシンセンのグレードアップには触れられていない。

香港は現在の状況を脱却し、これを契機として、今まで以上の大きな経済圏構想の中で、これまでのプロフェッショナルなサービスの面での国際金融センターとしての地位を堅持していけるだろうか。

政治的閉塞局面にある、今の香港の経済を読み解くポイントして考えられる(1)シンセンのグレードアップ計画、(2) グレーターベイエリア構想(粵港澳大彎區發展規劃綱要)、(3) 香港の国際空港のハブとしての地位、(4) 香港のシステムと国際的商習慣について考察する。

~以下、Capital Weekly, No.719 8/22号より引用~

『シンセン市のグレードアップ計画は、香港を揺るがすには及ばない』

香港が、連日のデモ等による社会的な運動により停滞状況に陥っている中、中国本土の中央政府は突如、『中国の特色ある社会主義の先進的模範区(モデル地区)として、深圳を支援することに関する意見書』(關於支援深圳建設中國特色社會主義先行示範區的意見)を発表した。
その中で深圳(以下、シンセン)が「金融サービスの実体経済力を引き上げ」「人民元のグローバル化を進めるのにパイロット的なテストを行い、国境を越えた金融ガバナンスにイノベーションを起こす試みを目指す」必要のあることに対して異例の言及をしている。これは先の『グレーターベイエリア構想』(粵港澳大彎區發展規劃綱要)の中でも触れていない点であり、中国の中央政府がシンセン市をグレードアップして、現在の香港の代わりをさせようと意図していることの現われではないかと懸念する向きもある。
しかし、単に香港が欧米式の法治制度や情報・資金の自由な流通を執っていることだけを見ても、シンセン市が取って代わるのは無理であり、シンセンが香港の地位を揺るがすことは難しい。ただ政治的な閉塞状況が今後も持続し、進取を考慮せず、伝統的な価値だけに拠りすがるならば、シンセンに追い越されるというよりも、自ら過去の業績を無駄にすることになりかねない。
中国国務院は数日前に、『中国の特色ある社会主義の先進的模範区として、深圳を支援することに関する意見書』(關於支援深圳建設中國特色社會主義先行示範區的意見)の草案を発表した。その中で触れているのは、「目下、中国の特色ある社会主義は新たな時代に入り、シンセンが新時代の開放改革の旗印を高く掲げ、中国の特色ある社会主義の先進的模範区を建設するのを支援し、更に高度なレベル・目標において改革開放をすすめ、改革を全面的に広く深いものにしていくのに有利である。また広州・香港・マカオを一体化した大湾区戦略をしっかりと実施していくのにも有利であり、『一国二制度』という事業開発の新たな実践を豊かにするものである」と述べている。
  草案は、習近平中国共産党総書記の名前を織り込んでおり、かつて鄧小平氏が始めた開放改革を引継ぐポジションにあることを暗示しつつ、習氏が講和や指示の形で発表したことに基づいてシンセンの発展に具体的な成果を残そうとするべく、一般からの意見を求める内容となっている。
ここで注目すべきは、一点目として、なぜ香港の政情不安なこの時期に打ち出したのかということ、二点目は言い回しの上で香港との競争関係を暗示していることである。シンセンは中国の国内法律が施行される区であり、香港・台湾に適用される一国二制度とは無縁であるので、シンセンの開発構想でこれに触れたことのニュアンスをどう読み取るかが鍵となる。

シンセンの昨年GDPは香港を抜いたが、一人当たり平均ではまだ及びもつかない

★「大湾区」構想とは趣を異とする
同じく今年の二月に発表された『グレーターベイエリア構想』(粵港澳大彎區發展規劃綱要)では、「シンセンが規定に沿って、シンセン証券取引所を核とする資金市場を発展させることを支持し、さらに金融開放のイノベーションを加速させていく」と触れられていたものの、一方では明確な策定によって、シンセンは「経済特区として、全国的な経済の核心都市、国家的なイノベーションタイプの都市としてリーダーシップを発揮し、現代化した国際化都市を打ち立て、世界的な影響力を有するイノベーションとアイデアに満ちた都市となるべく努めなければならない」とも述べている。

 香港については、国際金融・航空輸送・貿易センター・国際航空のハブとしての地位、および国際的な資産運用センター・リスク管理センターの機能を堅持しつつ、更に機能を高めるべきである金融・貿易・物流・プロフェッショナルサービスなど、ハイエンド・高付加価値の方向へ発展し、イノベーションとテクノロジー産業を大いに進め、ベンチャー産業を育て、アジアパシフィックリムの国際的法律センター・仲裁サービスセンターを建設し、更に競争力を有する国際大都市となるべきだと、同文書は述べる。
  ここ数月来の逃亡犯条例改定反対の抗議活動の連続で、香港の金融は、ハンセン指数で見るなら、8月15日に最低ラインの24,899ポイントを記録し、7月4日の高値29,007ポイントに比べ、16.14%下落した。
 貿易では米中貿易戦の煽りから、今年6月の香港輸出入全体の貨物値はいずれも40ヶ月来で単月最大の下げ幅を示し、今年前半では前年比3.6%の下げとなった。

香港の強みは制度上、国際規準と同期していること。香港の情報・資金の自由は、国内の都市には真似出来ない

★国際航空ハブへの影響
中国中央政府から香港は「国際空港のハブとしての地位」を目されながら、空港での抗議活動によって空港機能が麻痺したことから、国際的な信用と政治的なリスクの高まりにより各種産業に影響が出ている。こうしたことはこれまで金融センターとして機能してきた香港にとっては、経験したことのない事態だ。
中国中央テレビ局は8月19日のニュース番組で、メインキャスターの李梓萌が国務院発表の上記『意見書』に触れて、「シンセンに先進的模範区を建設して、この模範を誰に見せるのでしょうか」と問うた。この問いかけは、中国版ツイッターと称されるSNSサイト「微博」ウェイボの「話題ランキング」「急上昇キーワードランキング」に引用されるやいなや、閲覧回数は延べ3億2,000回を超え、広く中国国内ではこの「模範」を見せる相手は香港に違いないと評されている。
  今年2月末時点で、香港の統計局の発表では、2018年香港の通年GDP増加はわずか3%で、28,450億香港ドルに達していた。これに比べ、シンセンは増加が7.6%で、24,220億人民元であった。香港統計局は去年の通年の為替レート1.1855で換算し、香港を越えて、広州・香港・マカオ大湾区の対象都市の経済増長ボリュームで第一位である。
  一方、シンセンの総人口は1,253万人に達しているが、香港は748万人である。GDP一人当たりを計算するならば、香港は38万1,000強香港ドルに対して、シンセンは23万3,000強香港ドルとなり約6割強となる。つまり、シンセンはGDP全体値は香港を越えたとしても、実際の消費力と個人の財力は未だに並んだとは呼べない状態だ。
  IMFの去年のデータによると、シンセンの一人当たりGDPは世界第67位で、9,608米ドル。これは首位のルクセンブルグの11万4234米ドルに比べると、8.41%に過ぎない。一方、香港は世界第16位で、金額では48,517米ドル。シンセンと比較すると2割にも満たない。

香港の今年前半の貿易成績は振るわず、輸出は7ヶ月連続下げ。後半も楽観視は難しい

★システムと国際的慣習との同調
香港にあって中国にないものを考える時、香港に有利な点は、会計制度が国際基準に準拠していること、更に重要な点として資金や情報の流通度が高いところだ。香港は触れ幅のある固定為替制度を採っているが、中国大陸は為替管理、資金の出し入れが管理されている。
「先進的模範区」といっても、中国の法制が敷かれている限り、香港の金融でのポジションを代わるわけにはいかない。
株式市場についても、市場の暴落を防ぐために、中央政府は直接市場介入に及び、2015年に危機が起きた時には株式の売買を封じ込んでしまった。過去のデータを参考にすることは出来ても、国内の状況を客観的に分析したコメントが一般にシェアされることはなく、政府の方針どおりの楽観的なコメントだけでは、コメント本来の役目を果たしていない。
更に重要な点として、香港は資金流動の規制がなく、大陸のように「投資の行きはあるが、戻りが出せない」のとはまるで違う。またこの状態があるからこそ、闇金融(=「地下錢莊」、別名「シャドーバンキング」)が賑わっている。消息によると、最近では海外から国内への送金だけでなく、国内の資金を海外へ移すことも請け負うこともあり、手続費用は送金額の2割に達するという。国内がそんな状況だとはいえ、香港も旧態依然のままでよいということはない。
香港と並んで「アジアの四大ドラゴン」と称されたシンガポールの場合、2002年時点で、GDPはわずか900米ドル。対して当時の香港は1,660米ドルだった。しかし、2012年のデータでは、シンガポールGDPは2,747米ドルに達しており、香港の2,633米ドルを抜いた。一人当たり平均を見ると、シンガポールの人口が小さいため、数値上の差が更に開く。昨年のシンガポール一人当たり平均GDPは5万米ドルを超えたが、香港はわずか4万ドル強に過ぎない。
競争相手に切迫するには、更なる向上への精神を高く保ち、香港は現在の政治的閉塞局面を脱却し、「広州・香港・マカオ大湾区」という今まで以上の大きな経済圏構想の中で、これを契機として、これまでのプロフェッショナルなサービスの面での国際金融センターとしての地位を堅持していくことになろう。

(出典元)

https://www.capital-hk.com/feature/feature/shen-zhen-zai-sheng-ji-reng-nan-han-dong-gang-di-wei