【香港ローカル ニュース Vol. 9】

『香港に栄光あれ』オーケストラ版ミュージックビデオ楽団:アート創作でなぜ黒シャツにマスクが必要なのか!?

香港でのデモ活動の応援ソングが、ネット掲示板の呼びかけで完成し、先日そのオーケストラ編曲・合唱付きのミュージックビデオが制作されYouTubeにアップロードされました。過激な行動も目立つデモの若者は、どんな意気込みを持っているのか。行進曲のメロディに付けられた歌詞は、各国の国歌アンセムによくあるような戦争賛美でもなく、血なまぐさい表現が並ぶわけでもありません。オリジナル創作のこの歌の作詞・作曲のグループがオーケストラ合唱バージョンの制作にも携わっています。

総合プロデュース兼指揮者のSさん(仮名)は、「夜若い人たちがフィードをみて孤独に感じたり、お父さんお母さんが政府支持派で若者にまったくサポートしてくれなくて、結果、絶望のあまり飛び降り自殺したり、そういう若者を一人二人でも減らせるなら、と思っています。ショッピングモールで歌を聞いたり、インターネットでMVを見たのであっても、若い人たちが自分たちをサポートする人がこんなにいるのだ、独りではないんだ、と感じてくれれば十分だと思います。それが僕たちに為し得る唯一のことだと思います。みんなで勇気と知恵を出して一緒に集まり、全力で抗議活動する、ただそれだけです」と語りました。

YouTube動画はこちらから。

▼『香港に栄光あれ』オーケストラ版ミュージックビデオ楽団:アート創作でなぜ黒シャツにマスクが必要なのか。▼

『衆新聞 CitizenNews』 の記事から

香港でのデモ活動の応援ソングが、ネット掲示板の呼びかけで完成し、先日そのオーケストラ編曲・合唱付のミュージックビデオが製作されYouTubeにアップロードされました。過激な行動も目立つデモの若者は、どんな意気込みを持っているのか。行進曲のメロディに付けられた歌詞は、各国の国歌anthemによくあるような戦争賛美でもなく、血なまぐさい表現が並ぶわけでもありません。オリジナル創作のこの歌の作詞・作曲のグループがオーケストラ合唱バージョンの制作にも携わっています。Wikipediaにもエントリーされました。

撰文: 特約記者陳零 | 發佈日期: 23.09.19 | 最後更新: | 2019-09-23 02:57:13

香港の市民抗議デモの連絡手段として知られている連登(LIHKG)というネット掲示板の書き込み常連さんにより、共同で作詞・作曲された、いわばデモ参加者のテーマソング『願榮光歸香港~香港に栄光あれ』がYouTubeで発表されてから、香港のショッピングモールの公共スペースなどでも歌われるようになった。9月11日はそのオーケストラ編曲の合唱版がYouTubeにアップロードされ、延べ170万回以上の再生回数(その他のSNSなどへの転載を除く)を記録した。そのビデオを制作した楽団が先日、BBC, New York Times, The Guardian, TIME, the Japan Timesなど海外メディアの取材に応じ、国際的にも注目を集める「逃亡犯条例改定反対」運動にさらに関心を呼び起こした。取材に応じたのは、総合プロデュース兼指揮者、およびMV撮影の二人の合同監督。

『香港に栄光あれ』のオーケストラ・スコア

▼「勇気と知恵により全力で抵抗」(歌詞の一部から)▼

「夜、若い人たちがフィードをみて孤独に感じたり、お父さんお母さんが政府支持派で若者をまったくサポートしてくれず、結果、絶望のあまり飛び降り自殺したりする、そういう若者を一人でも二人でも減らせるならと思っています。ショッピングモールで歌を聴いたり、インターネットでMVを見たり、若い人たちが自分たちをサポートする人がこんなにいるのだ、独りではないんだ、と感じてくれれば十分だと思います。それが僕たちが為し得る唯一のことだと思います。みんなで勇気と知恵を出して一緒に集まり、全力で抗議活動する、ただそれだけです」と語るのは総合プロデュース兼指揮者のSさん(仮名)。

「100万回、150万回の再生回数が取れれば、『五大訴求』に換えられるのか。新屋嶺(デモ活動で逮捕された人が仮拘留されている地名)にいる勇気ある若者が解放されるのか。この歌がそういう目的の名の下に香港人を一致団結させられるなら、それはそれでいいことです。再生回数がどれほどあるのかは、そんなに気にしてはいませんが、そういう大きな再生回数を記録したということで注意を集めることが出来て、海外メディアの目を惹くことができるなら、みんなが勇気をもって進んでいくのには十分だと思います。それが気にかけているところです」。

Sさんは、この歌の意義は「あなたは一人で歩いているのではない」というメッセージを帯びていることだと言っている:「歩いていくその途中には同じ信念を持つ仲間がいる。どんなに困難があろうとも、仲間はそばにいる。ショッピングモールでそんな光景を目にしたり、ネット上で放映されている様子を見れば、24時間だけで100万再生があって、たくさんの人が応援している、簡単にあきらめちゃいけないんです」。彼は8月31日の地下鉄プリンスエドワード駅構内での警察による閉鎖空間の中での無差別逮捕事件が、ビデオ創作の出発点だと続ける。「和理非(和平的・理性的・非暴力的)を目的としていてもデモ行進をさせてもらえない。そういう強い無力感があって、でも何かをしなくちゃいけない、大げさなことじゃなくてもいい、普段からやっていること、そう、音楽で何かをしよう、そう思ったのです」。

ビデオクリップの合同監督Cさん(仮名)はストレートに言う。「ここ数ヶ月ずっと無力感に押しつぶされていて、「ニュースの現場中継を眺めながら、モニターをぶっ壊したいと思ったり、車で現場に駆けつけたいという思いの他には、無力感が深刻でした。だから、みんなが喜んで、このチャンスに何かをして貢献しようとしました」。もう一人の合同監督Vさん(仮名)は、今回の撮影に参加したのは、自分のためにバランス点を見つけることだったと言う。

  「極端にマイナスでないとしても、もうちょっとバランスの取れたことをする事が出来ないかと考えたんです」。

Sさんは続ける。「プラスのエネルギーがなくなってしまったら、もっとたくさんの人が飛び降り自殺するかもしれません。この歌がなかったら、香港社会に同じ戦陣に立っている人間がこんなにたくさんいると気づく人も少なくなります。Vが言ったように、この歌は鬱のほうへ気持ちが振れ切った人を元のバランスに引き戻すことが出来るのです。」

Vさんは、2014年の雨傘運動も、今の連登掲示板の投稿者集団創作曲『香港に栄光あれ』も、世代から世代へ受け渡す意義が含まれていると考えている。「五年前、(雨傘の時も)集団的な鬱状態が広がっていました。五年前の唯一できることといえば気を引き締めること、そうしてみんなが走り続けていくことで何かを残そうというものでした。Tが『香港に栄光あれ』の歌詞を書いたように、わたしたちも何かを残していける。今現在、結果を出すことは考えずに、霊感を受けた人のように、何かをやり続けていこうと思ったんです。」

Cさんは更に感慨深い様子で言う。「言い方を換えると、香港のすべてのことが今の私たちを作り上げているんです。独自の投票のシステムで何かを決めているわけではないのです。

中英(不平等)条約だって清朝が北京で締結したもので、香港人が参加したものではないし。雨傘運動の後、希望がないと感じて、二度と集団の抗議運動なんか出来ないだろうと感じていました。条例だろうが緊急物資だろうがみんな議会が勝手に可決して、(逃亡犯条例改定案のことを)初めて聞いた時も「あぁ、またあの人らが勝手に通しちゃうんだ」と思って、まさか今度の条例改定可決を阻止するために自分の前にこんなにたくさんの人が立ち上がるとは思いませんでした。だから今までのところはまだ少しの自由がありますが、このことだって多くの人の犠牲を経て変わって来たという経緯があります」。彼には、青年期の楽しい時期を取り逃がした苦い気持ちがある。「ここまで来ると、犠牲になること、反抗・抵抗に闘志を燃やすことが、ある意味、慰めです」。

▼表現の自由は創作アーティストには重要▼

『香港に栄光あれ』オーケストラ・合唱バージョンは、150人の楽器演奏者と合唱団員が参加したもので、オーケストラ用の総譜も一日で仕上げ、ブラスセクションのメンバーは録音の2日前にやっとパート譜を受け取った。現場リハーサルは15分のみ。その後合唱隊を入れたリハーサルが45分あって、本番録音に臨んだ。録音も30分で終了し、さらに3時間分の録画が撮影された。

「150人がスタジオ入りするとなると、人も物も大変です。3~4日かけて撮るわけにはいかないので、演奏者もプロレベルの人を集めるようにしました。この業界では、ほとんどが今回の運動の支持者です。ミュージシャンには、やっぱり言論の自由、表現の自由というのが大事です。発言する自由が大幅に押さえ込まれている時なので、今回のMV活動を進めるのに、みんながそろって応じ答えてくれたのはいわば普通の事でした」とSさんはMV制作が時間との戦いだったと言う。「831(死者が出たと噂のある地下鉄プリンスエドワード駅構内無差別逮捕事件)の後、わたしは団員と話したんですが、その2日後に、やれ『緊急法』(マスメディアを制限し、警察権力を強大にする非常事態宣言法)、やれ『戒厳令』と緊急立法が話題になって、ここまでの制作過程も、もしかしたら完成できないかもという瞬間を通ってきました」。

今回のインタビューを受ける時でも、MVの中でも、参加ミュージシャンは黒シャツ・ヘルメット・毒ガスマスク・ゴーグル着用で身分を隠して、白色テロ(=為政者から市民に対するテロ)への恐怖を表している

「ただ音楽をやっているとは思わないでください。戦う場所はどこにでもあるのです。MVに出てくる催涙弾は、白色テロはどこで起きてもおかしくないことを象徴しています。周囲に煙やマスクがこんなに出てくるなんて、そんなオーケストラは歴史上なかったでしょう。今の香港はまさにそういう状況です。勇気を出してやらなかったから今のような状況になったのです。ドラマをやっているのではないのです」とVはこのMVの象徴的な意味合いを説明してくれた。「ミュージシャンがみなワンショットに収まるシーンで、ガスや煙の共鳴するように大きく広がります。でも残念なのは、こういう事に香港人が共鳴してくれるのだろうかという疑問です」。

彼女は撮影後にもこんな反省をもらした。「完成品はとてもストレートな表現です。何重もの考えが必要な創作ではありません。みんなが受け入れてくれるレベルは広範囲です。5年前に同じ映像を作っていたとしても、今のように周りが受け入れるレベルは高くなかったはずです。和平・理性・非暴力というスタンスがますます狭められているので、出来ないことなどないということをだんだん意識するようになって来たと同時に、抵抗するという意識が芽生えて来ました」。

 「日常をマスクをして過ごす、創作活動も匿名にしなくちゃいけない、それは恐ろしいことです。文化的なスペースが狭いとはまさしくそういうことです。煙が上がれば怖いし、心配です。思想のスペースがだんだんと狭くなるからです。文化というのも社会の共有する階層のひとつですから、思想スペースが狭められれば、文化の階層も圧縮され、圧力が大きければ、抵抗も大きくなります」。

 騒動を起こす人が出てきてもしょうがありません。犠牲者が少なくなるなんてこと、ありますか。この世界で何が起こっているか、もっと目を向けるべきじゃないでしょうか。正面切って旗振りをする人がいなくても、犠牲者がもっと出たとしても、みんなが心の中の正義に近づけるよう努力してもいいのではないでしょうか」。

Sさんは続けて言う。「焦点を絞りましょう。そもそも誰のせいで物事が自由に言えなくなったんでしょうか。こういうこともみんな表現のしかた次第です。わたしたちのビデオも表現方法です。じゃあ、今使っている表現方法まで取り上げられたらどうしたらいいのでしょうか。アーティストがアートを作れないほどの状態になったら、アーティストにはいったい何が出来るでしょう」。 批評家は『香港に栄光あれ』は理想的ではないというが、SはMVの撮影時間も短かった上に、スコアのソプラノパートとトランペットパートが仕上がっていなかったことを指摘している。「歌で一致団結する。そう出来るなら、やるまでのことです。こういう歌にケチをつけるのは、ナンセンスだと思います。この歌は確かに高音がきついのですが、高音は特に出しにくいです。ソプラノが、トランペットが、どれほどいれば高音が出せるか。ブラスセクションはみなプロの演奏家ですし、外国人はいません。みな電話で連絡をとって協力・参加してくれたメンバーです。」

 Vさんは創作の部分にふれて、「直接カット割りしただけで、 込み入った話の筋があるわけではありません。時勢に応じた創作をするからといって、初めのうちは他のことに気を取られることもありますが、気持ちが素直であれば、何をやってもそんな変なものにはなりません」。現場撮影は、メインのカメラが二台、サブが一台、撮影スタッフも10人弱。「だれも、ギャラのことなど質問したりしませんでした」。

「撮影時は、演奏者に胸を張って断固とした感じを出すようにと言いました。一度言っただけでみんなうまく感じを出してくれました。歌詞の中の『勇気も知恵も永遠に不滅』というフレーズが大好きです。これは簡単なことではないですが、第一線にいるのはそういう気概だというのがわかるフレーズです。『鳩のように純真に』と言えば、みんなうまく純粋な感じでやってくれましたし、『蛇のように敏捷に』なることも必要です。あるシーンは若者が手に手を取っているショットがありますが、この運動の全体を表しているように感じます」。

「信念のために一歩も退ぞこうとしないのは、なぜか」のシーン。歌だけバージョンに取り入れられ、オーケストラバージョンMVでも取り上げられた

そのようなショットは元の(オーケストラ版ではない)MVにも現れていたが、「協調性のことを言うなら、このショットが印象的にすべてを語っているので、(オーケストラ版の)撮影を始めてすぐにこのショットを入れようと思いました」。【訳注:「鳩のように素直で、蛇のように賢くありなさい」というのは新約聖書マタイ福音書10章16節でイエスキリストが弟子たちを伝道に送り出す場面で、注意を促すために掛けた言葉】

▼つながっている▼

運動の当初、キリスト教徒と一部の市民が『Sing Hallelujah to the Lord(主なる神にハレルヤを歌おう)』というワーシップソングを歌う場面が見られましたが、8月末になると『香港に栄光あれ』が登場し、みんなをまとめ上げ、一致団結する威力を発揮するのに役立った。

「音楽はそもそも国際的な言葉です。『Sing Hallelujah to the Lord』も崇高な聖歌の風格がありますが、国歌や讃美歌というのはやっぱり一緒に歌うことで人々を結び付ける力があると思います。そういう斉唱する歌というのは一緒に歌うことで、特に団結する感じが出せると思います」。Sさんはそのように、今回の運動で香港人の間にある、いわく言い難い相互信頼が表わされていることを形用している。

「前からTさんのことを知っていたわけではないんですし、今まで当人と面識はなかったですし、声を聞いたわけではなかったです。つながりといえば、連登の掲示板の常連書き込みをしているのを知っていただけです。この歌を録音してもかまわないかと尋ねたとき、OKをもらいました。それから、Telegramを通じてリンクしたときにも、相手がTさんであったことを知らなかったんです。今回のMV作成でなかったら、赤の他人がWhatsAppでリンクしてきても、信用しないでしょう?今回のようなことだからこそ、「つながる」ことができたんです。不思議な感覚です」。

Cさんも言う。「そういう感覚は何度も繰り返し起こっています。両隣知らない者どうし、でもデモ支援物資ステーション(水や熱冷まシートなどの消耗品を無料提供)の管理人とかと、突然、知らない人と『警察に追いかけられたらどうやって逃げるか』とかを考えを話し合うとか、ぜんぜん知らない人が現れて、命が助かるヒントを教えてくれたりするのです」Sさんは更に続ける。「わたしもVさんのことは知らなかった。でも一週間で親友になれた。一緒に作業して、作品が出来た。お互いの個性を分かり合えた。不思議な感覚です。二週間経つと、出会うべくして出会ったという相互信頼も生まれます。今のような危機的な環境が無かったら、そういうことはなかったと思います」。

出典元:

https://www.hkcnews.com/article/23691/%E9%A1%98%E6%A6%AE%E5%85%89%E6%AD%B8%E9%A6%99%E6%B8%AF-%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A8%82-%E5%90%88%E5%94%B1%E5%9C%98-23692/%E3%80%8A%E9%A1%98%E6%A6%AE%E5%85%89%E6%AD%B8%E9%A6%99%E6%B8%AF%E3%80%8B%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A8%82mv%E5%9C%98%E9%9A%8A%EF%BC%9A%E4%BD%95%E4%BB%A5%E8%97%9D%E8%A1%93%E5%89%B5%E4%BD%9C%E4%BA%A6%E8%A6%81%E9%BB%91%E8%A1%A3%E8%92%99%E9%9D%A2%EF%BC%9F