【香港経済を追え vol.18】

5月末に北京の全国人民代表大会にて「香港版国家安全法」の発表がされてから、香港の富裕層の間で資金の移動や分散、移民などの動きが見られるようになってきています。今回は、これらの人々へのインタビュー記事をご紹介致します。

【国家安全法の香港版】ブルームバーグ:香港富裕層は海外脱出と資金移動の準備立てを図り、金融センターの機能を揺るがすか 

  香港が国家安全法の規制を受けるようになることで、国際社会も関心を持ってその行く末を見守る中、ブルームバーグは中産階級の市民や金融のプロフェッショナルの香港人数名にインタビューを行い、最悪のケースに備えた準備をして、資金移動・移民を考えており、香港に留まるとしても、二つの方向で備えを進め、少なくない人が既に海外口座を開設したり、他国のパスポートを取得するなどしているため、香港の金融センターとしての地位を揺るがしかねない状況であることを指摘している。香港人は子供の時には天安門事件で両親と共に海外の国籍を取得して移民し、成人後に香港に戻ってビジネスを発展させたり家庭を持ったりしているが、今またこの時に子供をつれて海外へ移住するという、政局を理由とした二回目の香港脱出が起きており、「子供にはすこしでも良い環境で成長してほしい」と述べている。

報道によれば、香港では今のところまだ大きな移民の波は起きてはいないが、現時点で「香港の中国返還のあった1997年以来、経済も政治も最悪の危機」に直面していると伝えている。香港から大量の資金流出が起きているというデータはまだなく、ローカルの銀行の四月期の預金量は記録更新のレベルまで上昇しており、加えて香港ドルが米ドルと同調するペグ制を保っているので、強みのある取引の勢いを保っている。とはいえ、公開の場で香港の多くの富裕ビジネスマンは国家安全法を支持する立場を見せてはいるものの、プライベートでは個人企業やプロフェッショナルな職業に就く者の多くが消極的な態度を示している。

 中産階級上流階級の市民は香港で重要な地位を担っており、不動産ビジネスに投資し、また中国企業の資金調達の手段である債券の主な買い手でもあり、少なからぬ数の人々がリスク回避のプランを始めている。報道によると、「香港では『高額純資産投資者(High Net Worth Investor)』がもし香港マーケット内での投資を減らすならば、関連した業務は正に今こそ対応策を打つべき時であり、随時資産を移動させる準備が必要」と伝えている。あるプライベートバンクの職員が明かしたところによれば、中国が一方的に国家安全法制定を発表した後、クライアントは臨機応変プランの実施を早めたという。投資顧問マネージメント会社のPort Shelter Investmentの経営総裁リチャード・ハリス(ハーバードビジネススクールでMBAを取得、現在香港在住のスペシャリスト)は、「端的にいうと、我々はゆっくりと動きながらも衝突の瞬間を迎える列車を見ているようなものです。今はまだ資産移動をしていない人であっても、『自分も資金移動したほうがいいか?』と思うようになるでしょう。こうした傾向は今後も続きます」と述べている。

  センシティブな話題であることを鑑み、インタビューを受けた人々は名前を出すことを望んでいないが、鄭(Cheng)という姓のインタビュー回答者は、香港生まれのビジネスマンであり、シンガポールに1,000万ドルを移動させる予定で、今年中にシンガポールの永住権を取得し、既に香港の不動産物件を売却し始めている。まだ本当の意味での移民ではないが、諸々の事情を考慮した結果、彼自身も家族も、アメリカ・カナダ・オーストラリア・フランスのパスポートを取得してあるという。彼が心配しているのは、中国が香港への締め付けを強化することで、将来的にもっと動乱が起こることだ。

  シンガポール法人で資産運用・投資顧問会社であるKamet CapitalのCEOであるKerry GOH氏はブルームバーグのインタビューに対して、これまでにもクライアントから移民に関する一般的な問い合わせを受けてはいたが、現在はより詳細な情報、たとえば学校やビザや銀行の対応などを尋ねてくるようになったと答えており、「香港で起こっていることは、(1997年の返還後も50年間は一国二制度を守るという約束の期限である)2047年の期限到来を加速させるもので、香港の問題が激烈化すれば、シンガポールの利点はさらに増える」と述べている。シンガポールの他にも、香港の資金流出先の国はあり、例えばプエルトリコ・スタンダード・インターナショナル・バンクは昨年業務を拡大し香港人からの預金受け入れが二倍以上に増えている。

34歳のDennis(仮名)さんは香港で両親の始めたコンサルティング会社を受け継いだ。家族や友人も資産の移転をしており、英国留学していた彼自身も、イギリスでの不動産投資を考えており、「ロンドンならもっと大きな住宅が買えるので、投資しない理由がありません。自分の財産を守るのは当たり前で、不確定要素の影響は被りたくありません」と言っている。

  投資銀行職員で、高いポジションを得ているSam(仮名)さんは今年43歳。三ヶ月のうちには香港を離れて、妻と子供二人を連れてオーストラリアに移民する。不安定な政局のために移住するのは二回目で、一回目は1989年のこと。当時12歳だった彼は天安門事件が理由で両親に連れられて香港を離れた。Samさんは、移民先のパスポートを持って外国籍を保持してビジネスや金融でよりチャンスの高い香港に戻って仕事をする「回流者returnees」の一人として、2000年に香港に戻って来てビジネス発展に従事してきた。今また移民するのは、「社会の局面が悪い感じで、しかも悪化する一方」だからという。オーストラリアに移住してからは、「子供にはもっと良い環境で育ってほしい」からだとしている。

香港のゴールドマックス移民顧問有限公司(香港環凱移民顧問有限公司)のプロジェクト代表役である周凱婷さんは、『国家安全法のニュースが流れてから、会社が受け付けた問い合わせは五倍に上昇し、中産上流のクライアントが今のところ望んでいるのは、「避難先」を確保しておくことであって、移民することは「スタンバイのオプション」と見ている』とのことだ。

香港の金融センターの役割を揺るがす可能性も。(画像はネットから)

出典:

蘋果日報 6月15日電子版 更新時間 (HKT): 2020.06.15 00:02

https://hk.news.appledaily.com/international/20200615/SUX7NSCZGTPUWPQKRGRJTQ6OOI/

リチャード・ハリス氏の6月5日時点での香港経済へのコメント(英文)
http://www.portshelter.com/where-inequality-lives/


Kamet Capital Partners Pte Ltd. 会社情報
https://www.bloomberg.com/profile/company/1625650D:SP