【香港経済を追え vol.36】

◆ニュース1:VBの資本金は間もなく使い切る。複数行が資本追加を行い、業務拡大を図る

香港で最初に開業したバーチャル銀行 Virtual Bankは、衆安銀行・天星銀行などを含め開業して間もなく満一年になろうとしている。業務の基礎が着実に整うに従い、次なる経営業務の展開にはさらに資金が必要だ。複数のバーチャル銀行が2020年後半には親会社からの資本投入を求めていたが、各行ごとに1.5億香港ドルから6億香港ドルとさまざまだ。アナリストの言葉では、バーチャル銀行は開業して一年となるが、いまだ利益の出る状況になく、運転資金が尽きる前に追加の資本投下が必要。

香港現地のメディアが登記書類の閲覧をしたところ、バーチャル銀行3行が2020年の後半に新株発行による増資を行っていた。

この3つは:
1.衆安銀行ZA Bank Limited(眾安在線財產保險 ZhongAn Online P&C Insurance, 百仕達控股有限公司Sinolink Worldwide Holdings、中信銀行(國際)有限公司 China CITIC Bank International Limited、騰訊テンセント、螞蟻アントFinTech系列)、
2.Mox銀行(PCCW, HKT, Trip.com, Standard Chartered Bank系列)、
3.匯立銀行WeLab Bank(長江実業ハッチソン系列)。

この中で、衆安銀行ZA Bank の増資額が最高で6億香港ドル(約4.5億円)に達する。次がMox銀行で、4名の株主から持株比率に沿った追加資金4.69億香港ドル(約3.5億円)、匯立銀行は4回に分けて新株発行し、合計1.5億香港ドル(約1.1億円)の資金を受け入れた。

※上記換算は、2021年1月25日夜22:13現在のスタンダードチャータード銀行香港モバイルバンキング内での外貨為替レート仲値 0.074701による。日本円売り0.074084 / 日本円買い0.075318。 

増資額最大の衆安銀行は、メディアの問い合わせの回答として、「開業して約半年になったところで18万人の顧客を有しており、今回の増資は今後の事業展開計画に備えるためで、6億香港ドルの増資分はすべて親会社である衆安金融からの拠出であり、そのほかの新株主はない」としている。「追加投資はオペレーション規模の拡大と効率の良い資産運用サービスを提供するためで、将来もテクノロジーの向上に伴い顧客にそれに相応しい最新のサービスを提供し、多様化したプロダクトラインを通して、フルラインナップのサービスを提供していくためのものである」とのこと。

高利息での顧客集め・資金の消耗

もうひとつのMox銀行はスタンダード・チャータード銀行SCBが牽引役で設立され、SCBが65.1%の議決権のある株式を有している。その他の株主である香港電訊HKT(香港テレコム)[香港証券取引所コード:06823]と電訊盈科PCCW(Pacific Century CyberWorks LimitedかつてのCable and Wireless HKT、現在は2000年以降の再編により、HKTとは別会社)([00008]の二社合計で25%、9.9%を携程金融(トリップドットコム・FinTech, Trip.com)が持っている。昨年11月にMoxのオーナー会社4社が合計4.69億香港ドルを投入し、同銀行のスポークスマンは「開業以来約三ヶ月で顧客数が65,000名を超えており、平均の預金残高が70,000香港ドルであり、グループ内のMoxカードでは累計50万件の取引数を記録した」と明かしている。

2020年7月に開業した匯立銀行WeLab Bankは具体的なネット上の集客状況を公開してはいないが、第4四半期の新規口座開設者の数が、第3四半期に比べ、1.5倍に増えたとだけ述べている。そのほか、同銀行の12月期のネット上の取引額が11月に比べおよそ8割増であった。

オペレーションのデータに反映されているように、VBの業務は加速度的に増加し始めており、それに応えるべく、後日さらに多くのサービスを打ち出していくために、資本の引き上げは必須。

業界筋の情報では、VB各行はいずれもまだ収益捻出の段階に達しておらず、現時点では高額利子の金融商品や使用額に応じた現金還元などの優待で顧客を引き止めているという。

衆安銀行ZA BankとMox銀行を例に取れば、どちらも定期口座の預け入れは年利1厘(1%)としており、集客数の増加に伴い、利息支出も上昇するため、資本を消耗する量も高めとなっている。事実、Moxは1月4日から定期口座の年利1厘の預け入れ金額の上限を、これまでの100万香港ドルから60万香港ドルに引き下げることになった。同行のスポークスマンによれば、「現在市場金利が低く、銀行としても慎重に調整を進めており、利息の調整を段階的に行うことで顧客の大多数にとっては依然魅力あるものとすることが出来、新規顧客獲得していくスピードと収益には影響させない自信がある」と述べている。

市場の認識では、Moxのこの下方修正は顧客が預け入れを渋る金額を意味するので、銀行にとっては利息支出の増加に他ならない。しかしMoxは現在のところ貸付の商品がないため、預け入れで吸収した現金を吐き出す先がない。いずれ関連する手を打つ必要がある。

今回、増資額最大の衆安銀行は、アナリストの所見によると「同行は貸付業務を有しているので、銀行監督機関が要求する適正な自己資本比率を維持するため、充分な資金をバッファーに当てなくてはならない」としている。

別の言い方をするなら、VBの株主への配当は、当該の監督機関である香港金融管理局に資本金の計画を既に提出したときに繰り込み済みであり、経済環境の劣化を理由に事前に準備金を立てるような種類のものではない。

また、開業してからの時間が長くなるにしたがい、そのほかVBも資金追加投入の動きに出ないとも限らない。とはいえ、経済の見通しが立たない現在の状況で、今後業界が資金の運用の面で貸付業務を始めるなど手を広げる際には、慎重にならざるを得ないだろう。

liviもバーチャルのデビットカード(ATMカード)を推進する計画

2020年8月に開業したLivi銀行は、中国系銀行のシステム 銀聯UnionPayのQRコードを使った電子マネーの利用を主軸に据えている。liviの商品開発取締役を務める葉慧文女史は最近メディアのインタービューに応じた際、ここ数ヶ月顧客の口座利用量は安定して伸びていると答えている。同女史は中国銀行(香港)で東南アジア全域また大湾区(香港・マカオ・シンセン・広州などを含む経済圏)での消費者金融やモーゲージ商品の開拓をリードして来た人物。2020年11月までの実績で、liviは銀聯UnionPayのQRコードによる電子マネー利用を推進するべく、利用の翌月には自動的に3%の年利が付く特典を打ち出した結果、顧客の月毎の平均預け入れ額が約七割半増加した。これにより同行の口座を利用した週ごとの消費支出延べ回数は4倍近くにまで増えた。

昨年12月31日から単純に計算して、一日にliviのUnionPayを通じたQRコード利用の購買回数は5,000件近くとなり、毎分3.3件の取引が行われていることになる。

同女史は、「VBはまだ開業の最初の段階であり、顧客集めを主眼として2021年の業務推進をしていくと言う。これにはVBのデビットカード、消費者向け貸付、資産運用業務などを含めている」とのこと。

ニュースソース: EDigest 經濟一週 #2047(23/1 – 29/1 2021)

ニュース2:電子ウォレット(おさいふ)支払いの業界に元金融管理局総裁を務めたノーマン・チャン氏が登場。RD Wallet社にて新たな電子ウォレットのライセンスを申請。金融管理局の認可待ち

金融管理局:「ライセンスの申請は通常の手順に則り処理」

マーケットの競争に加えITの進化が著しい中、FinTech(←financial technology)という術語もメディア報道に頻出する香港。そんなマーケットの監督機関である香港金融管理局の元総裁であったノーマン・チャン氏(陳德霖Norman Chan Tak-Lam、以下ノーマン)‎が、監督を受ける側のビジネスの実戦に再登場。キャリアを活かして今後どのようにビジネスシーンを刺激していくのか、話題になっている。

ノーマン氏は昨年7月16日付けで法人登記された新会社、圓幣錢包科技公司RD Wallet Technologies Limitedの取締役会議長として、電子デバイスによる消費支払のツールSVF=Stored Value Facilities、いわゆる電子マネー・電子ウォレット(さいふ)のライセンスを、元の勤務先である金融管理局に対して申請した。現在、同社はライセンスの認可待ちの状態であり、クロスボーダーな貿易業務を行う企業をターゲットに、新たな電子ウォレットの支払プランを開発すると見られている。

<アップルデイリー記者:劉美儀>

※訳注: 香港は英国植民地時代からのやり方で、行政・行政がすべて条例によって管理され、日本と違い国家レベルの法律・法令に頼らない。条例は香港の立法議会(そのメンバーは民主国家のような普通選挙によって選出されるのではない)で条例案が提出され、議会の三回の審議を通ると直ちに施行される。「逃亡犯条例改訂案反対」で、全香港市民の三分の一に近いデモが発生してメディアの話題になったのも、三回の審議で可決されれば、香港での政治的言論の自由が中央政府の意向のままに潰されることを恐れたからだった。

FinTechの発展に伴う条例整備として『支払システムと現金価値支払ツールに関する条例』が既に用意されており、2016年にはこれに基づいて運用ライセンスを申請した最初の企業に金融管理局からライセンスが交付された。当時、その舵取り役であった管理局の総裁のノーマン・チャンは、このライセンス発行は小売業の支払形態が新たなステージに踏み込んだことの里程標だと評した。それから5年後、その同じ人物が自らの会社を立ち上げ、今度はライセンスを申請する側に回ったのを、今回業界は驚きをもって見ることとなった。

香港で始動、その後海外進出も

圓幣錢包RD Wallet(以下RDW社)のスポークスマンがアップルデイリーの問い合わせに回答したところでは、同社の主要なポストは既に選任が終わっており、現在業務準備中で、事業に関連するライセンスの申請の段階で、「金融管理局は条例に基づき所定の手順で審査を行い、一切のライセンスと全く同じ仕方で扱われているはず」と述べた。

RDW社は「独自に開発したITシステムを立ち上げて、顧客となる企業に安全な支払システムを提供する。アジアの物流のハブである香港で、大量の輸出入・再輸出に従事する企業がクロスボーダーな取引を行うのに、これまで長期に渡って難点であった、安全で簡便な支払システムを、最新のテクノロジーで提供することとしている。まず香港市場で営業開始し、市場の動向を伺いながら、海外拠点を設けたい」としている。

金融管理局の元総裁が指揮する会社がSVFライセンスを申請したとあって、審査が有利な条件で進められるのか、はたまた、当事者利益の衝突が起こらないように審査が厳しくなるのかが気になるところだが、管理局のスポークスマンは「業界の噂や個別のケースには触れることなく、ただ申請はどれも『条例』に則り関連する附帯条例に照らして処理されるだけだ」と述べた。審査に要する時間については、個々のケースが条例の要件を満たしているか、提出書類が適時に充分に揃えられているかを見て判断しており、一概に言うことは難しいが、審査が通ってライセンスが交付されれば、その事実は公表されることになる。

スタートは50人のチームで。バックの株主は衆安グループ

RDW社がビジネス向けのSNSであるLinkedInに開設したアカウントの情報では、11人から50人のチームで立ち上げる予定となっている。これまでに4名のフルタイム職員が採用となっており、リスク管理チーフとコンプライアンス対応チーフが含まれている。FinTech業界筋によると、「オフィスはセントラルにあり、今も業界内のエリートを積極的に発掘している」という。

ある情報では、同社がSVFライセンス申請を行ったのは第一ステップに過ぎず、次のステップは経済圏内の複数貨幣(香港ドル、人民元、日本円を含む)を一元管理できる、電子ウォレット内に統合貨幣単位(composite currency)「圓幣」=RD(恐らく、Round Dollar)を設けて、クロスボーダーな支払決済の媒介ツールとして使うことを広めていくのがターゲットであるとの見方がある。このような方法でクロスボーダー企業にとってこれまでずっと重荷であった支払処理・為替差リスクなどの難題を解決しようとしていると思われる。

ただ、‎「圓幣」=RDはビットコインのように暗号化された貨幣単位ではない。従って、その他の実体貨幣との兌換フォーミュラは、慎重に制定する必要があり、関連する貨幣を監督する当局や銀行などと協議を進めていかなくてはならない。

RDW社は、5,000万米ドルを発行済み株式額としており、既に1,000万米ドルは振り込まれている。現在五名の主要投資者がおり、それぞれが二割の議決権のある株式を持っている。‎これには、眾安在線(ZhongAn Online)[香港証券取引所コード:6060]系列下のZhongAn Digital ‎Asset Group Ltd., それに眾安グループのもうひとつの企業である眾安銀行が含まれる。同銀行は一昨年金融管理局が最初のVBバーチャル銀行のライセンスを発行した三つの企業のひとつである。‎

ニュースソース:アップルデイリー
https://hk.appledaily.com/finance/20210125/DUR5PMNL6BBE3CBXVPFDDIGKFE/?fbclid=IwAR3KPlKuCloFUECd6s-kLA7i7QFEuUedvQvBqZ8eq2r_Fg1dlJdjumYXmSk  2021/01/25