【香港経済を追え vol. 42】

『經濟一週 EDigest Magazine』 2050 13/2-19/2 2021号から

原文タイトル:経済コラム『胡・言論市』 回看四個港樓「牛市」辛丑年如何走?

恭喜發財! Kung Hei Faat Choi (Gùng-héi-faat-chòih) 身體健康,萬事如意,牛氣沖天!

2月12日金曜日に香港の旧暦新年が明けました。公休日は15日月曜日までで、16日火曜日からが初出勤。旧暦の正月休み中は、新型コロナの防疫のため、店舗営業にも人が集まるのにも制限が掛かり、自宅でくすぶっていた人も多いはず。木曜日18日から政府がいわば香港版の「非常事態宣言」を緩和したので、20日・21日の土日の町並みは急に人出が賑やかに。そんなわけで、緊張の解けた人々がレストランでマスクを外して話しながら食事を取っている姿が見えることから、また感染拡大の第五の波が起こり、元の木阿弥になるのではないかという声も聞きます。

1月3日に「当分営業休止」してから、2月21日現在、日曜の昼なのにまだ閉まったままのレストランもあります。
一方、18日からの「制限緩和」によって、営業再開した「蛇羹」蛇スープ専門店もあります。画像は、香港島の上環Sheung Wan(金融ビジネスの中心地「セントラル」の西隣の地区)。

店内では中年男性がまさに「店内お召し上がり」の最中でした。ところが、大陸からの観光客がぱったり途絶えた商業地区コーズウェイベイ(銅鑼湾)にあった蛇スープ専門店は、新型コロナの影響で持ち堪えられなかったその他多くの飲食店やバーと同様に、今年になってから閉店に追い込まれたようです。境目は、店のスペースを賃貸しているのか、それとも自社所有なのかに寄るところが大きいでしょう。これは、お粥・海老シューマイ麺類専門店でも言えるようです。

香港では、人が集まって話しをすれば話題になるのが投資市場の景気。市況が「牛」(安定成長)なのか「熊」(長期的に下げ傾向)なのかをよく問題にしますが、過去四回の「丑年」を振り返り、今年、辛丑年(日本式には「かのとのうし」)の不動産市況がどうなるかを予測するコラムを『EDigest經濟一週』から要約でご紹介します。

『胡.說樓市』 Feb 10 2021 – 18:29
(ケーブルテレビの住宅物件投資専門ニュース番組のアンカーを務めた胡國威とそのパートナーの二人で共同運営するニュースサイト。)

ニュースソース:https://www.edigest.hk/242787/?utm_campaign=copy および紙媒体の雑誌の同記事

牛市場~じっくり成長路線  熊市場~下落開始(株式ならば要注意銘柄)

【2021年香港の不動産市況は依然として上昇機運に乗り続けるか、それとも下落に転じるのか。過去4回の丑年からパラレルな現象を探る】

旧暦で2021年は辛丑年。十二支では「丑の年」。過去50年間の丑年、1973年、1985年、1997年、2009年の不動産市況の動静を振り返る。いずれの年も社会的大変動があった記憶はまだ新しい。住宅物件市況でもそれに従う動きがあっただろうか。過去の丑年を振り返ることは2021年の動向を見定める参考になるのか。「さきに成りし事はまた後になるべし。日の下には新しきものあらざるなり」(旧約聖書伝道の書1章9節)と聖書は全く新しいものなどないと言う。アメリカ人作家マーク・トウェインも“History doesn’t repeat itself, but it does rhyme”. 「歴史は繰り返さないが、同じ響きは繰り返す」と言っており、実際そっくり同じではないにせよ、なにかしら似たような事件は何度も起こっている。

1973年 上昇から下落へ

20世紀の半ば60年代は、大きな社会変動を経験した時代で、当時の英国植民地政府は中国大陸での大躍進や文化大革命の余波を受けた香港市民の動揺を鎮めるべく、十年がかりの住宅建設計画を打ち出す。これには賃貸のみの住宅ビル「公屋」と分譲用の住宅ビル「居屋」の二種類が含まれ、住宅物件市況も社会の安定化とともに上向きとなる。

ところが残念なことに、偽株券事件と中東オイルショックに見舞われ、1973年10月には株大暴落を引き起こす。ハンセン指数は400ポイントから、暴落後1974年には150ポイントまで、前後実質9割を失い、左ウチワの日々から瞬く間に素寒貧になる。

株式市場が不景気のため住宅物件市況も上向きにならず、1973年上半期の価格は1970年に比べ1.2倍になっていたが、その後1975年末と1973年を比べるとおよそ三割下落している。1973年は住宅物件市況が上向きから下向きに変わった分岐点であった。

経済全体も、1973年から1975年にかけては大不況に陥り、不動産市場も頓挫する。1976年になって、香港政府が地下鉄建設を決定すると、土地価格(=土地使用権価格)は上昇の兆しを見せ、住宅物件も好景気を取り戻す。

言い換えれば、1973年は不動産市況が上昇から下落に変わった分水嶺の年で、1976年になってやっと上昇機運を取り戻す。

1985年 大幅利下げ

80年代全般、香港不動産市場は大変動へ向かう。事の起こりは80年代初頭のローカル住宅物件市場のオーバーヒート。住宅物件価格も土地価格も軒並み上昇。英国植民地政府は利息を大幅に引き上げて年利24厘とすると同時に英国女王の私有物である土地の使用権を大量に放出して、住宅物件の高騰を抑えようとした。

しかし、1982年に大陸政府が香港回収の宣言を行ない、その消息が出回るや否や市況は転じ、1984年までには高止まりしていた物件価格が5割下がる。その後、英中両国が正式に『英中連合声明』を調印して、市況は落ち着き始める。

1985年は、香港の不動産市況が再び新たな出発を始める重要な年となった。利息がもっとも利益を出しやすい低率になり、1984年の17厘から1987年の5厘にまで下がると、香港政府はまた土地の供給を制限し始め、毎年の土地供給は50ヘクタールを超えないものと定め、土地価格の高止まりを維持する政策に転じて、これに続く90年の香港主権返還前の不動産市況のバブル景気へとつながる。

言い換えれば、1985年の丑年に不動産購入した者は、中間層の不動産市況に上下はあったにせよ、1997年香港返還前の市況の上昇機運をうまく掴んだこととなる。

図は、九龍半島の深水埗 Sham Shui Po(工業用品の小売店の階上は一般住宅。どちらかと言えば低所得者の多い地区)。新規の住宅物件は郊外で展開されていくが、築後年数の長い、商用・居住用兼用のビル物件がこの地区には密集している。2021年1月、新型コロナ封じ込めを狙った「エリア封鎖一斉強制検疫」の措置の一回目が起こったのもこの深水埗の南側に位置していた。

1997年 不動産バブルがはじける

90年代に入ると香港の不動産市況は勢いが良く、不動産仲介業は香港経済の大きな柱の一つとなる。1994年物件価格が最高記録を出し、1996年になっても勢いは止まらなかった。残念なことに1997年丑年になると、住宅価格は反転を始め、同年タイバーツが急暴落したことで「アジア金融危機」を引き起こす。ジョージソロスがヘッジファンドを率いて、かつてイングランド銀行を潰した時のように香港ドルと香港証券市場を狙い撃ちしてきたため、金融管理局は一夜にして銀行間貸付金利を引き上げ、巨万の富を目論む空売り機関投資家を撃退したのだった。

利息コストに敏感な香港の不動産市場はコストの急な引き締めに持ちこたえられない。加えて新たに成立した中華人民共和国特別行政区香港政府は主権返還後に意図的に「8万5千戸の住宅建設」を進めることとし、住宅物件の供給を増やし、不動産価格の下方修正誘導の理由としたことから、不動産バブルが弾ける。物件の投売り・買い注文のキャンセルが激増、市場は踏んだり蹴ったり状態となり、「銀行名義登記の物件」(破産した者の所有物件を競売で銀行が取得したもの)という名称はこの時代に止むに止まれずに起こったもの。

果たして、1997年に不動産市場は高止まりから急降下の波に飲まれ、いつまで続いたのか。当時は不明瞭であったが今になって結果論を言えば、市況全体の下落サイクルは三つに分かれていた。まず最初は1997年10月から1998年1月までで、下げ幅は32%、次は1998年3月から同年10月までで、46%の落ち込み、しかし下落の波全体も2003年8月には終息する。1997年第3四半期から2003年第2四半期まで、実に累積で68%も落ちたのだった。

そういうわけで1997年は20世紀の不動産市況盛衰の分岐点ということができ、90年代の盛況から2003年のSARS禍が終わって、一通りの調整サイクルがようやく過ぎたのだった。
郊外、特に新界の交通の要所にあたる場所では大型住宅ビル群が、既存の地下鉄駅最寄り、または新規開設の地下鉄駅周辺で、現在も開発・進行中。

2009年 世界規模で資金があふれる

2009年の市況を振り返る時、2008年にアメリカのリーマンショック(住宅ローン債務を債券化したサブプライム商品の崩壊)で始まった全世界的な金融危機に触れないわけにはいかない。当時は一時期懸念が広がったが、嵐が過ぎてみると今から振り返っても特段の問題が起きたわけでもないように思われた。上限なしの量的金融緩和政策(QE)のお蔭で、中央銀行が紙幣大量発行したことは資産価格を刺激し、香港の不動産市場は一番の受益者となったように思えた。しかし2008年全世界が金融ショックに巻き込まれると、不動産価格とハンセン指数は一気に急落。センタライン・シティ大学指数(CCI Centa-City Leading Index)は、2008年9月の67.24ポイントから、僅か三か月で17.5%まで落ちて、12月には55.46ポイントの低水準になる。しかし、2009年に入ると世界的な資金のだぼつきから、資金が不動産市場に向かい、価格下落を止めた。住宅物件の価格は2009年前半から2割落ち込んだが、後半から回復をみせて、通年では30%の伸びとなった。このように、2009年丑年は不動産市場が10年以上に渡って展開してきた上昇サイクルの転換点であった。


実のところ、2009年から2020年までの間、香港の住宅物件市場は低利息・供給不足などの要因から、上がることはあれ下がることがなかった。2009年に短期的な下げはあったものの、はっきりした回復機運が二回起こっている。最初は2015年から2016‎年で、これは米国の金利が正常に戻り、不動産価格の利子コストが増大、香港差餉估計署(所得税とは別個に、時価に応じて不動産使用税のみを管理徴収する役所)‎の住宅価格指数は、2015年4月252.9ポイントから、一時期2016年6月の233.3‎ポイントに下方修正されたが、市況は短期的に落ちただけで、量的金融緩和策により急速な回復を遂げる。直近の調整は2019年から2020年、普通選挙を求める民主化運動のデモ頻発という社会的な不安定と新型コロナによる景気後退を受けた年。‎差餉估計署のデータによると、2020年通年の住宅価格指数は0.1%下がっており、‎センタライン・シティ大学牽引指数(CCL)も通年で1.07%の下げとなり、12年来で最大のマイナスとなった。一言で言うと、1973年と1997年のうし年は、住宅物件が下方修正に向かった転換点。その後いつ回復したかについてはいくつかの要因を考慮せねばならない。1973年を例に取ると、住宅市場は数年後に上昇に転じたが、1997年の価格のほうは時間を掛けても底値がどこかを見極めるのが難しい。しかし、‎うし年は香港の不動産に全く不利だったかといえばそうでもなく、1985年と2009‎年の例のように、長い長い上昇期の開始点だったこともある。上昇期が10年以上のサイクルになることもあり、投資初心者でも、市場に入るタイミングさえ間違えなければ、リターンは倍数で計算することも出来たのだ。‎

このように、2009年牛年は市況の展開サイクルが伸びて10年以上になる傾向が現れた転機の年だった。
MTR(香港鐵路)と南豐發展(Nam Fung Development)共同開発の、將軍澳 Tseung Kwan O日岀康城LOHAS Park 第十期“LP10”が海まで僅か38メートルというオーシャンフロントのビル群として建設中。

2021丑年の住宅物件市場はどこへ向かうか

2021年の住宅不動産市況の動向は吉か凶か。数回の丑年の成績によると、市況は何回かの曲がり角を経ているが、それは後日数年後の成績を見た時に初めて真相がわかるにすぎない。ただ言えることは市況は諸要因が拮抗しながらバランスを取る方向への調整期に踏み込んでいるということだ。引き下げる力が上向きの力に勝っているおり、‎差餉估計署の12月の買い控え時期後のデータの示すところでは、住宅価格指数は連続三か月落ちている。

しかし住宅市場は良いファクターを欠いているわけでない。資金流入は依然続いているし、モーゲージの金利は広く僅か1.5%だけだ。同時にここ数ヶ月セカンドハンド物件市場が活発で、1月の中古物件登記件数と金額は、12月に比べて数パーセント増加して4か月来で最高だ。新型コロナ拡大が緩和する兆候を見せるに従い、市場関連者の予想では、中古物件売買は明確な増加を見せ、2月中古物件売買量は4,000件のレベルを超えるだろうとしている。

新規物件の販売事情といえば、「小春日和」の様相で、個別物件の発売速報では、香港フェリーとインペリアルグループが共同で開発している中小型住宅の住宅ビル群、新界西端の屯門に位置する『屯門帝御•嵐天Skypoint Royale』は、初ロット281戸の発売で(購入手付金は最低でも299万香港ドル[およそ3900万円])であるが、初日で241戸が売却済みとなった。去年の比率よりも8割伸びた。※『帝御•嵐天Skypoint Royale』は、『帝御シリーズ』の第3期分譲ロット。ワンルームからワンベッドルーム・ツーベッドルームまで比較的小規模の間取りを採用し、3.3メートルの高い天井と、自然に囲まれた景観、充実した住宅関連施設を売りにしている。

◇Skypoint royaleの紹介ビデオhttps://youtu.be/hBPGBjjap9M


その他、新界西端の新規物件將軍澳『日出康城LP10(LOHAS PARK Ten 暫時中国語名なし)』第3ロットの販売では、物件が179戸で、開始一日で8割近くが売却済みとなった。LP10はこれまで累計で493戸を販売しており、開発プラン全体の55%に及ぶ。売却時価総額は50億香港ドルに迫る。

画像はFacebook  RichGameHKより。「上車」とは住宅不動産物件に自身が住みながらステップアップしていく、その最初の物件購入を指す

以上、過去四回の丑年を振り返ってみると、香港は輝かしいビッグエラの最中であることは確かなので、これから住宅取得を目指す人々にとっては慎重に市況を見極めて、買いのタイミングを見定めるべきだろう。不動産王の異名をとるスーパーマン李嘉誠の言葉を借りるなら、住宅物件購入で一番重要なのは、「量力而為-おのれの身の丈を弁えて行動する」ことだろう。