香港のお盆・中秋節、そして月餅

暦の上では8月7日が旧暦で立秋でした。
皆様には残暑お見舞い申し上げます。
今回は香港の秋の伝統行事についてご紹介します。
〔 香港のお盆 〕
日本ではお盆休みが終わったと思いますが、旧暦で伝統行事を行う香港では、お盆(盂蘭盆会うらぼんえ)も旧暦に沿って今年は9月5日(旧暦の七月十四日)に行われます。
日本では公共スペースで盆踊りをしたり、精霊流しをしたりしますが、こちら香港では、お盆の際に大戲(たぁい・へい)いわゆる広東オペラを室外運動場や公園の広場・公団住宅の野外共用スペースなどに仮設舞台を設けてご先祖様に見せるという風習があります。舞台が作れない狭いスペースでも香炉だけは設けているところがあります。また、日本で迎え火送り火を焚く習慣があるように、土が出ている地面のない香港の街中では、紙品と呼ばれる、あの世に「お焚き上げ」したい物品を紙で作った模型のような物を家の近くの歩道の脇のほうで焼いて灰にし、また果物や野菜をお供えしているのを見掛けます。香港でもナスやキュウリを馬に見立てた精霊馬は作るようです。ただし、篝火(かがりび)ではなくドラム缶の焼却炉のそばで線香を焚く感じです。

※筲箕灣にある公園の塀に据え付けられたお盆用の飾り付け。このような仮設舞台を含む枠組みも、ビルの外装工事の時と同様に竹が使われています。伝統劇の奉納はお盆に限るわけではなく、その他にも香港各地でいろいろなイベントの一部として行われています。
さて広東オペラというと、日本人には馴染みが薄いですね。北京オペラと称される「京劇」とは、使われる言葉も歌のメロディーも違います。日本人から見ると衣装だけは北京オペラも広東オペラも似たようなものに見えますが、香港の広東オペラは、唐滌生という天才脚本家が20世紀前半に活躍したために、伝統的な形式の中で新作ドラマを繰り広げて多くの支持者を集めました。『帝女花』という広東オペラがたぶんいちばん有名な出し物で、好きでもないのに香港のティーンエージャーでさえその一部は歌えたりしますし、冗談の替え歌まであります。
『落花滿天蔽月光』 花落ちて天を満たし月影を覆う
→ 〔落街冇錢買麵包〕 (家から外の)通りに出てもお金がなくてパンが買えない。
これは、ほぼ同じ声調・メロディーです。

<唐滌生 帝女花> 西九文化戯曲中心大劇院(西九龍ウエスト・カウルン文化区戯曲センター大劇場)の字が見えます。

※ちょうど今地下鉄の通路にあったポスター。『牡丹亭』というのは新作ではなく、古典的な名作。香港人なら見たことはなくてもこのタイトルだけは知っているという若い人はたくさんいます。こちらも「戯曲センター大劇場」での公演。
広東オペラという舞台劇は、香港の老人ホームに入居するようなお年寄りが一日中耳を傾けるような伝統芸です。民間経営の専門劇場「新光戯院 Sunbeam Theatre」が香港島の北角ノースポイントに今年三月までありました。今は黃埔Whampoaに新たに新光黃埔として再開しました。劇場というより、名作映画のリバイバル上映専門の映画館のようです。

※ノースポイントにあった新光戯院の外観。近くのビルには広東オペラの練習場を兼ねた劇団の事務所などもありました。この劇場は、香港島を走る路面電車からはよく見えました。

※ 黄埔 Whampoaにあった映画館を改装して、新規開業した「新光黄埔戯院」。ポスター内に見える『時光倒流七十年』は、クリストファー・リーヴス主演の「ある日どこかで」Somewhere in Time の香港での封切り題名。
九龍半島側のオースティン・ロード(広州市行きの直行列車が出る電車駅の近く)には香港政府の運営する戲曲中心 (Xiqu Centre)という劇場が出来て、香港を拠点とする伝統劇の劇団や大陸から訪問する劇団が公演を行っています。

※西九龍文化区の一部として建設された『戯曲中心』の外観
ちなみに、お盆の奉納の広東オペラは、一般の公共スペースで公演されるので、チケットを買う必要もなく、だれでも見られます。場所によっては、町内会のかくし芸大会のようなことを披露している場合があります。
〔 中秋節=中秋の名月 〕
お盆が過ぎると、次は中秋の名月。これも旧暦に従い、八月十五日で、今年は西暦の10月6日が「中秋節」です。中秋の満月を見ながら一家団欒を楽しむという習わしから、一家揃って食事ができるよう当日は多くの会社が従業員を午後三時~四時くらいには早引けさせます。満月の「まん丸」と「一家円満」が中国語ではどちらも “團圓”(北京語読み:tuányuán; 広東語読み : tyùhn yùhn)なので、満月の夜は一家全員で夕食のテーブルを囲むという縁起担ぎの意味があります。
日本では月見団子とススキをお供えしますが、香港では「月餅」を食べる習慣があります。月餅も、中華圏は場所ごとにいろいろな材料・形のものがあります。香港で伝統的に食されているのは、蓮の実餡・塩漬けダックの玉子の卵黄を薄めの生地で包んで焼いたもの。大人の拳くらい大きな月餅を四つ贈答用の缶に詰めたものが、日本のお中元のように季節の挨拶として、会社から会社へ、個人からお世話になった人へ贈られます。重さがかなりあるので、最近は「月餅引換券」を菓子店・パンケーキのメーカー・有名ホテルの中華レストランなどで購入して、そのクーポンだけをやり取りする人も多くいます。ただ、伝統的な月餅はカロリー爆弾なので、もう少しマイルドな甘さで、まるで和菓子のような、もち米・米粉をベースに小豆餡やジャムを入れた、冷蔵が必要な生物の「冰皮月餅」Icy Moon Cakeというライトな月餅が発売されるようになり、製パン・ケーキ各社がこぞって宣伝しています。ペニンシュラホテル特製品とか、ホテルの中華レストランやゴディバのようなチョコレート専門店でも、Moon Cakeとしてこの時期限定のお菓子が発売されています。

※地下鉄駅のホームの対面に出ていた広告。奇華は香港の空港内にも店舗のある老舗菓子メーカー。
日本でいえば、菓子製造業・パンケーキ製造業のバレンタインチョコレートやクリスマスケーキのかき入れ時ですから、8月初頭から香港のあちこちに、月餅の広告が出始めます。地下鉄の車両内や乗り換え通路なども、盛んに宣伝するようすが見られます。

※地下鉄のドアを含め、車両の全体を貸し切って月餅の広告を出す菓子メーカーも。モデルの男性は俳優・歌手の張智霖 Chi Lam CHEUNG, Julian



10月1日の国慶節(中華人民共和国建国記念日)が公休日、10月6日が中秋節で午後早めの終業、翌7日は公休日、これが過ぎると、10月29日(旧暦の九月九日)が重陽の節句で公休日。そして10月31日は10月最後の金曜日でハロウィーン。ハロウィーンは休日ではありませんが、土日が休みの若い人たちは、香港人も外国人も夕方からそれぞれのコスプレ・メイクアップでバーやクラブに繰り出し、夜中まで騒いでいるのを毎年見掛けます。
このように国慶節という重要な祝日がある10月はけっこう休日が多いので、仕事の区切りの良いところまでを終わらせようと、9月は毎年なにかとせわしない時期であり、ホテルの予約も取りにくくなります。9月がせわしないのは、秋の広州交易会があるからというのも原因の一つです。


※通称「広州交易会」
https://www.giftshow.co.jp/chinese/cantonfair2025
このブログでもお伝えしているように、今や香港貿易発展局主催の展覧会・セミナーにも大陸の企業が出展していますし、ITやFinTechなどソフトパワーのビジネスの機会が増えたこともあり、九月が繁忙期になる原因は複数考えられます。
中秋節が過ぎると、通常は台風もおさまり暑さも和らぎます。11月、香港は祝日がなく、次はクリスマスの三連休まで通常運転です。年によって異なりますが、12月頭までエアコンは必須です。このブログを見てくださる方がたにとって今年の秋・冬は涼しいでしょうか。季節の変わり目、お元気でお過ごしください。